2015年12月25日金曜日

2015年のハムシ論文

2015年もあとわずかですね.今年もいろいろハムシを採りました.
一番嬉しかったのは地元でカツラネクイを採集できたことですね.
三田のセラネクイに挑戦して3回ぐらい失敗に終わったのは秘密です.

ここで,ハムシに関する今年の印象に残った論文を少し紹介します.
採集ばかりしてないでちゃんと論文も読んでますアピールも兼ねてます.


◆ Nadein, K. S., 2015. Phylogeny of Diboliina inferred from a morphologically based cladistic analysis (Coleoptera: Chrysomelidae: Galerucinae). Arthropod Systematics and Phylogeny73: 65-83.

ノミハムシ類 25属の系統です.
最近の系統の論文としては珍しく,形態形質のみで系統関係を推定しています.
また,テントウノミハムシ属 ArgopistesをDiboliina亜族に移すことが提案されています.
Diboliina亜族については最後に属への検索表もついているので,同定する際にも役立ちそうな論文です.

◆ Doddala, P. R., Minor, M. A., Rogers, D. J., & Trewick, S. A., 2015. Fifteen into Three Does Go: Morphology, Genetics and Genitalia Confirm Taxonomic Inflation of New Zealand Beetles (Chrysomelidae: Eucolaspis). PLOS ONE, 10: e0143258.

Eucolaspis属はサルハムシ亜科に含まれるニュージーランド原産のハムシです.
この論文では分類学的問題が残されている本属を対象にして,系統関係などを明らかにしています.
ハプロタイプネットワークを見ると,ニュージーランド本土のものは大きく3つの系統に分かれることが示されています.
この3系統は雄挿入器先端の形状,上翅の幅,点刻密度に違いが認められるようです.

◆ Jurado-Rivera, J. A., & Petitpierre, E., 2015. New contributions to the molecular systematics and the evolution of host-plant associations in the genus Chrysolina (Coleoptera, Chrysomelidae, Chrysomelinae). ZooKeys, 547: 165-192.

ヨモギハムシ属 Chrysolinaの利用する寄主植物と系統進化に関する論文です.
本属も分類学的な扱いにコンセンサスが得られてない分類群の一つです.
近縁のOreina属を含めた分子系統解析では,Chrysolina属は多系統になっています.
また,これまでに提唱されている系統関係の仮説検証をAU testで行っています.
Chrysolina属の利用する寄主の祖先形質復元もしていて,シソ科が祖先的になるようです.

◆ Eben, A., & Espinosa de los Monteros, A., 2015. Trophic interaction network and the evolutionary history of Diabroticina beetles (Chrysomelidae: Galerucinae). Journal of Applied Entomology, 139: 468-477.

ヒゲナガハムシ亜科 Galerucinaeに含まれるDiabroticina亜族とその寄主植物との関係を系統的側面から明らかにした論文です.
ここでは,寄主植物が既知のハムシ43種が使われています.
大部分の種は数種の植物のみを利用していますが,一部の種は多くの植物を利用するそうです.
これらのハムシが利用する寄主は,過去に何度もシフトしていると推定されています.
というか,BEASTで寄主利用の進化プロセスの推定ができるんですね.一度やってみたい.

◆ Bukejs, A., & Nadein, K., 2015. First fossil Lamprosomatinae leaf beetles (Coleoptera: Chrysomelidae) with descriptions of new genera and species from Baltic amber. Zootaxa, 3931: 127-139.

バルト海沿岸地域の琥珀からのツヤハムシ亜科 Lamprosomatinaeの3新種の記録です.
琥珀の年代は始新世末期頃です.
ツヤハムシ亜科は日本に6種しかいないのでなじみがないかもしれませんが,タラノキなどによくついてる小さなアレですね,属は違いますが.
化石記録は生物の進化における直接的な証拠ですし,系統樹から分岐年代を推定する際の較正点にも使うことができるので,このような記録は重要だと思います.
自分でも昆虫化石をいつかとってみたいですね.兵庫では新温泉町で出土するようですが,一度も行ったことがない.

◆ Bukejs, A., & Chamorro, M. L., 2015. Two new fossil species of Cryptocephalus Geoffroy (Coleoptera: Chrysomelidae) from Baltic and Dominican amber. Proceedings of the Entomological Society of Washington, 117: 116-125.

こちらはバルト海沿岸地域やロシア産の琥珀からのツツハムシ亜科 Cryptocephalinaeの記録です.
琥珀からのツツハムシ亜科の記録はこれが初めてのようです.
2新種が記載されており,一方は始新世末期,もう一方は始新世末期-中新世初期の琥珀からです.
ハムシの写真も載っていますが,樹脂の中に閉じ込められていて,きれいな状態で保存されているように見えます.

◆ Macedo, M. V., Flinte, V., Abejanella, A., & Chaboo, C. S., 2015. Three New Reports of Subsocial Tortoise Beetles From South America (Chrysomelidae: Cassidinae). Annals of the Entomological Society of America, 108: 1088-1092.

南米にいる亜社会性のカメノコハムシに関する論文です.
カメノコハムシ亜科は2族(EugenysiniとMesomphaliini)で亜社会性が見られ,この論文ではEugenysa martaeOmaspides clathrataの行動について書かれています.
卵,幼虫,蛹は一か所にまとまっており,それを母親が寄生蜂などの捕食者から守るそうです.
このような亜社会性のカメノコハムシの扁平縁は,自身の防衛だけでなく,その子供を守るためにも役立っているのでしょう.
日本には亜社会性の種が分布していないので見てみたいです.

◆ Schmitt, M., & Uhl, G., 2015. Functional morphology of the copulatory organs of a reed beetle and a shining leaf beetle (Coleoptera: Chrysomelidae: Donaciinae, Criocerinae) using X-ray micro-computed tomography. Zookeys, 547: 193-203.

交尾時にハムシの交尾器がどのように使われているかを示した論文です.
ネクイハムシ亜科のDonacia semicupreaとクビボソハムシ亜科のLilioceris liliiを用いています.
交尾中のものを液体窒素またはエタノールで固定し,マイクロCTによってその断面写真を撮影しています.
ハムシの体内で交尾器がどうなっているのかがよくわかります.

◆ Nagasawa, A., & Matsuda, K., 2015. Factors Determining the Host Range of Two Tortoise Beetles, Cassida nebulosa L. and C. piperata Hope (Coleoptera: Chrysomelidae) in Japan. The Open Entomology Journal, 9: 1-6.

日本のナミカメノコハムシ Cassida nebulosaとヒメカメノコハムシ C. piperataの寄主利用に関する論文です.
どちらも主にアカザ科をホストとする種ですが,その寄主選択に違いが見られ,それぞれ異なる要因に制限されていると考えられています.
ナミカメノコでは,集団間でも寄主選択の違いが示唆されています.
ヒメカメノコの幼虫はヒユ科の一部の植物でも育つことができるみたいですが,私自身は野外でヒメカメノコがヒユ科にいるのを見たことがないです.

◆ Nishide, Y., Fukano, Y., Doi, H., Satoh, T., Inoue, H., & Boriani, M., 2015. Origins and genetic diversity of the ragweed beetles, Ophraella communa (Coleoptera: Chrysomelidae), that were introduced into Italy and Japan based on an analysis of mitochondrial DNA sequence data. European Journal of Entomology, 112: 613-618.

ブタクサハムシの遺伝的多様性を調べた論文です.
ブタクサハムシは1995年に日本へ,2013年にはヨーロッパへ移入された,北アメリカ原産のハムシです.
アメリカと日本とイタリアの集団でmtDNAのCOIIの塩基配列を調べたところ,日本産はアメリカ産よりも遺伝的多様性が低いそうです.
また,イタリア産とはハプロタイプを共有していないことから,日本とイタリアの集団は異なる起源を持つことが示唆されています.
どうでもいいですが,今年自分が採ったブタクサハムシは長野の1個体だけでした.

◆ Lechner, R., Kuehn, R., Schmitt, T., & Habel, J. C., 2015. Ecological separation versus geographical isolation: population genetics of the water‐lily leaf beetle Galerucella nymphaeae (Coleoptera: Chrysomelidae). Biological Journal of the Linnean Society, 116: 423-431.

生態的隔離と地理的隔離のどちらが遺伝的分化に寄与するかを検証した研究です.
イチゴハムシ属の一種 Galerucella nymphaeaeで,AFLPマーカーを使って5集団の遺伝的な違いを調べています.
本種にはタデ科食とスイレン科食の2つのエコタイプがあり,地理的に離れているが同じ科の植物を食べる集団間よりも,地理的に近いが異なる科を食べている集団間の方が遺伝的距離が大きくなっています.
すなわち,ホストの違いによる生態的隔離の方が,地理的隔離よりも遺伝的な違いを生み出すようです.

◆ Takizawa, H., 2015. Notes on Japanese Chrysomelidae (Coleoptera), III. Elytra, 5: 233-250.

最後に,今年新たに日本のファウナに加わったハムシについてです.
この論文では,日本からハムシ科の6新種が記載されています.
また,日本産の一部の種で所属の変更も行われています.

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